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迎えた土曜日は、生憎の曇天だった。
特に気を遣う相手と会うわけではないので、優介は適当なジーンズとシャツ姿で、自宅アパート傍近くの高架橋下で迎えを待つ。
腕時計で11時を確認した頃、見覚えあるミニバンが近づいてくるのが見えた。
「よ、久しぶり」
「よう、みんな久しぶりだな」
後部座席の扉を開け、身を潜らせる。中に乗っている三人と簡単な挨拶を交わした。
反対側窓際に座る岡野は、休日にも関わらずスーツ姿だ。きっちり固めた髪、隙の無さを伺わせる硬質な眼鏡をかけた容貌。
真ん中に座る黒須は、優介と変わらずラフなTジャージ姿で、サンダル履きだった。しっかりした体躯にいかつい顔で、一見その筋の人間に見えなくもない。これで介護施設の厨房勤めだ。
そして、呼びつけた本人は運転席で、洒落たサングラスをかけ実年齢を感じさせない派手な格好で、こちらを振り返っていた。
「で、どこに連れてかれるんだよ? このメンツで」
隣に座る黒須が、大袈裟に肩を竦める。厳つい顔が、おどけた顔に変わる。
優介の問いかけに、前田はサングラスを外し挑発的な笑みを見せた。
「いいところだ、優介。こいつらにもまだ言ってない」
「いいところって……なんだよ、墓でも買いに行くのか?」
「ああ、いい線いってるな。ま、着いてのお楽しみだ」
ハンドルを握り直し、前田は前方に向き直った。
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4人を乗せた車が止まったのは、閑静な住宅街にある一軒家の前だった。
空き家なのか、雨戸が閉まり小さな庭には雑草が伸び放題になっている。
車を降りるよう促され、庭に立った優介達は先頭に立つ前田をそれぞれ不審感露に見つめていた。
「肝試しにはまだ、早いと思うが?」
「そんな曰くつきの家じゃねーよ」
呆れたような岡野に、優介も同意するように頷いた。
築年数がかなり経っていそうな、一見すると不気味と取れる家だ。
ズボンの尻ポケットから、味気の無い古びた鍵を取りだし、前田は玄関にそれを差しこんだ。
説明を一切せず、勝手にずかずかと進む前田の背中を、三人は仕方なく付いてく。
内部は蜘蛛の巣が張り詰めていたり、廊下の床に穴が空いていたりはせず、予想以上に綺麗な状態だった。
薄暗いリビングには、ソファやテーブルといった家具がしっかり揃っている。
「おい、雨戸開けてくれ」
言われるまま、手分けして庭に面した雨戸を開ければ、明るい日差しが差し込んできた。
改めて見渡すと、傷みの少ない家のようだった。埃も積もってはいない。
「なぁ弘志、なんなんだよ。これのどこがいいところだって?」
焦れた苛立ちを、埃っぽいソファに腰を下ろした黒須が前田に投げつける。優介と岡野も、ソファの傍に立ち前田を見た。
窓を背に振り返った前田は、不満爆発寸前の三人を前に短く息を吐いた。
「この家は、俺の親戚の家だったんだが……まぁ、俺に譲り渡された。好きにしろってな。で、時々掃除しに来てたんだが」
「それと俺たちと、なんの関係があるんだ?」
優介の素朴な疑問に、前田がニヤリと笑った。
「家って、ほっとくと傷むだろ? で、俺一人での管理も大変だ」
「なんだ、片づけでも手伝えってか」
「そんな面倒なこと頼むかよ」
前田は浅い溜息をつくと、表情を改めた。
「一緒に住まないか? この家に、4人で」