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あれはいつの頃だったか、まだそんなに遠くない昔の記憶だ。
付き合いのあった仲間が一人、四十路を前に結婚を決めた。
その友人の披露宴の席で、前田と黒須が酔っ払った上でこう切り出してきた。
――40過ぎても独身だったら、俺たちは老後に備え一緒に住もう、と
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「おまえ……そんな戯言を本気にしてたのか?」
あからさまに呆れた口調の岡野に、前田は不機嫌に眉を顰めた。
「悪いか? 現にお前らも俺も、全員見事に独り身だろ」
「そりゃそーだが……なぁ」
物事には順序があり、ましていい年なら事前相談があるだろう――とは言い出せず、優介は控え目に切り返した。
優介の言葉に、ますます前田の表情が険しくなる。それを見兼ねて、宥めるよう黒須が立ち上がった。
黒須は、優介と前田の間に割って入る。
一人そっぽを向いている岡野に苦笑しつつ、前田の肩を勢いよく叩いた。
「まぁ、話を最後まで聞いて検討しようぜ? どっか別に落ち着いた場所で、飯でも食いながら、な?」
大きな身体を揺らし、黒須はわざとらしく張った腹を撫でた。
言われて腕時計を見れば、13時間もなくなろうとしている。朝食を食べていなかったのを思い出し、優介も一気に空腹感が襲ってきた。
「黒須に賛成、飯食いに出ないか? ここじゃ話もなんだしな」
「……わかった、近所のファミレスでいいか?」
大袈裟に溜息をつき、肩を竦めた前田に全員、安堵の息を吐くと短い返答で同意を示した。
休日の昼食時、混み合うファミリーレストランの店内で、一見統一性の無い男の集団は微妙に浮いていた。
昼食を済ませ、店員が食べ終わった食器を下げに来たのを機に、前田は再び話を切り出した。
「クロが丁度無職になったって言うから、このタイミングだと思ったんだ」
「は? クロ仕事辞めたのか?」
初耳の情報に、優介と岡野が顔を見合わせ黒須を見つめた。
当の本人は、気まずそうに短く刈り込んだ頭を掻いて、軽く頷いた。