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出来るならば縁を切りたいと、切に願う
神様は、意地悪だと思う。
熱心な信者でもない俺にそう思われても、懐……いや心の広い神様は、なんとも思わないかも知れないが。
しかし、根性は悪いと俺は思っている。
「だからだな! 会いに行くのにいちいち理由だ、事情だを考慮するか普通!?」
「するのが普通なんだ。いいから落ち着け、座れ」
定期巡回を終えて戻った交番の、奥まった休憩室から聞こえてきた会話に俺はげんなりと肩を落とした。
春先はやや、こういった方々が訪ねて来ることも多いが、今はまだ冬だ。
今日も寒風吹きすさび、小雪舞い散る空気に芯から冷えてきたところだ。。
そんな冬の寒さを物ともしない男が、先輩である山岸さん(来年定年)に窘められていた。
「須藤……お前また、なんかやらかしたのか」
「追川! 丁度いいとろに帰ってきた、このジイさんじゃちっとも話しにならないんだ!」
「悪いが俺も、お前の期待に応えられる通訳は出来ないぞ」
「通訳? お前らの耳にはぼくのこの美しい日本語が、何に聞こえているんだ? 耳大丈夫か?
」
そっくりそのまま、お前の頭が大丈夫かと返してやりたかったが、俺は溜息を洩らすに留めた。
素材自体は高級な毛皮のコートを、素肌に着込んだどう見ても公然わいせつ罪な男は、残念なことに幼馴染だ。
同い年で、来月になれば35歳にもなろうという男が。
小さなこの町で、そんな恰好をしていれば当然目立つ。
ただ目立つだけならば、俺達がわざわざ出向く事もないが、こいつはそこに輪をかけて面倒を引き起こしてくれる。
お陰で、すっかりこの交番は須藤のセカンドハウス状態だ。
「何しでかしたんですか?」
熱いお茶を俺に差し出してくれた山岸さんに尋ねれば、こめかみを掻きながら山岸さんは苦い表情を浮かべた。
既にこの格好自体で問題ありだが、この男に関してはそこはもはや問題では無かった。
「中学校の敷地内に入り込んで、大量のラブレターをばら撒いて来たんだ。ついでにコレのオマケ付きだ」
手渡されたのは、和紙に流れるような美しく達筆な文字が綴られた……ラブレターという名の妄想。そして、明らかに盗撮と思われる、対象者の着替え写真。
お茶で喉を潤したのが無駄になるほど勢い付けて須藤に詰めよれば、本人は涼しい顔で答えた。
「お前何やってんだ!! まだ諦めて無かったのか!」
「諦める? 意味がわからない。ぼくがぼくの愛しい人を見守っていて、どこに問題がある? 寒くなってきたのに薄着じゃ可哀想だと思って、腹巻を送りつければ返ってくるし」
「お前の愛を受け入れてるなら、学校敷地内やアパート近辺に出没するのを止めて下さいって相談には来ないぞ」
「テレてるだけだと、この間も説明しただろうが」
腕組みするほぼ須藤から目を逸らし、俺と山岸さんは同時に溜息をついた。
立派なご両親から、どうしてこんな息子が生まれたのか。
代々この田舎町で名士と言われた須藤家の長男坊であるこいつは、はるか昔は神童だなんだと大層持て囃された。
たまたまうちの母親が、須藤家のお手伝いさんをしていた関係で俺とこいつは乳飲み子の頃から約35年の付き合いだ。
幼少の頃は、色白で小柄で線が細くて、そりゃーもうどこの美少女だと間違われたものだったが……全体的な、こう神がかり的な美貌は変わっていないかもしれないが、それにしても中身が残念過ぎる。
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※あるぱかさんより、一年ほど前お名前を頂いたキャラクター「須藤王」です(笑)
味付けは私風味ですが、お楽しみ頂ければ幸いです<(_ _)>