派手塾経営者×地味コンビニ店員

-03-

 可もなく不可もなく、通知表は常にオール3。
 何か秀でた物もなく、外見的にも突出した特徴もなく。
 だから俺がどんなヤツかなんて、誰も尋ねてきたことはなかった。


 * * *


「あー……悪い、本気でふざけ過ぎた」

 大の男が、大人が、俺みたいな若造に頭を下げる。
 奇妙な光景に、道行く人が遠巻きに眺めていく。
 そりゃそうだ、派手なスーツ来たオッサンが、ジーパンTシャツの俺に頭を下げてるんだから。
 
「頭! 上げて下さいよっ」
「いや、俺の気が済まねぇ」
「いいです!」

 帰り際の塾の生徒まで囲み出したんで、俺は仕方なくオッサンの手を掴み――駆け出していた。



「……若人よ、俺は人生折り返しの歳なんだが」
「知ってる! あんたがあんなとこで、馬鹿な真似するからだろ!」

 息を乱して、肩を上下させるオッサンに、腹立ちまぎれに一気に怒鳴り返した。
 俺だって、久しぶりに走ったんだ!
 早くもないのに!
 駅裏手の、小さな公園で俺達はしばらく息が整うのを待った

「あー、嫁さんと駆け落ちした時思い出した」
「……期待裏切らない過去ですね」
「そうか? 学生結婚でデキ婚て普通だろ。だから娘、マサクニとあんま変わらない歳だぞ」
「なんで俺の歳知ってるんですか」

問い掛けといて、愚問だと気付いた。……店長とこの人、ツーカーだった。

「嫁さん……ても今は、元嫁だけど。馴れ初め知りたいか?」
「別に」
「娘の写メ見るか」
「いいです」

 オッサンは、溜息混じりの苦笑をこぼしたようだった。

「つれないな、第一種接近遭遇は、お互いをわかり合うことだろ〜?」 「第二種に移行する気がないんで、俺」 「俺は、その気になったんだけどな」
   
 声のトーンが、変わった。  そう思った瞬間、地面についてた左手首を取られた。  オッサンに思い切り、引っ張られる。

「離せよ! 何す……っ」 「マサクニが、俺に興味持つようにおまじないしてやるよ

 他人を口説くのに、なれた調子で、そんな声で。  無駄に色気たっぷり囁くと、掴んだ俺の手首に――吸い付いた。

「ちょ、うわ何してんだよ!」

 強く吸い付いたと思えば、舌先でそこを舐めて、また吸う。  他人の唇と舌の感触が気持ち悪くて、背中が震える。  身をよじったが、唇は離れない。  オッサンは散々人の手首を涎まみれにして、唇を離した。

「効果はお楽しみに、だな」