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こういうのを、年甲斐が無いって言うんだろうか。
「でな、超おっかねーのその警官」
暇を持て余している、午後のコンビニのレジで、彼はずっと隣のハルナちゃんに話し掛けている。
派手な柄シャツは胸元が大きく開いて、金色のネックレスがチラチラ鎖骨の上で揺れている。
暑いのに着込んでるスーツも、光沢あるスーツだ。
店長の高校からの友人らしくて、営業妨害していても5回に1回しか怒られない。
――メタボ腹で頭髪がヤバくなって来た店長と同い年ということは、この人こんな格好で40歳なんだよな。
「あ、私今日はもう上がりなんで」
「マジ? えー、このあとお茶しに行かない?」
「用事があるんで、ごめんなさい。松下さん、お先に失礼します」
「あ、はい。お疲れ様」
丁寧に頭を下げて、バックルームに消えてくハルナちゃんを見送っていたら、突然肩を勢いよく抱かれた。
「青年、ハルナちゃん狙いか?」
「いえ、全然」
「普通、そこちょっとは肯定すんだろ」
「……俺、職場に色恋は求めてないんで」
職場どころか、人生においてもあまり色恋を求めて無い。
この人は、色恋がなきゃダメそうだなと、初めて間近で見る横顔を見上げた。
「若いのに枯れてんな、青年」
「そうですか」
「そうですよ」」
肩を抱いていた腕を外し、派手男は腕組みしてまじまじと俺の顔を見つめて来た。
居心地悪い、他人にジロジロ見られるのは。
「……お前、特徴無い顔してるよなぁ。バイト長いだろ? ここ」
「2年です」
「だよな、でもいつも顔覚えらんね。客商売だから、男だろうがジジババだろうか顔覚えるのが得意なこの俺が」
「……薄味の顔で、すみませんね」
関係無い、この人に覚えてもらう必要もない。
男は腕組みをしたまま、まだ何か考え込むように俺を見て来た。
「なんですか?」
「青年、下の名前なんて読むんだこれ」
「匡邦……、マサクニです」
「堅い名前ー、名前もなんか覚えづらい」
「……すみませんね」
客の来ないコンビニに、いつまでこの人は居座るのか。
無言の態度に、男はやや肩を竦めた
「マサクニが睨むから、帰りますか」
「呼び捨てしないで下さい」
「断る、俺の意地でお前の顔と名前覚える」
「迷惑です」
「だから、俺のことも覚えとけよ」
なんだその捨て台詞。
知ってますよ、いつも買う煙草も、缶コーヒーの種類も。
これ以上何を覚えろってんだ、あんたの。